
説得力ある結論。
本文460頁余りの中に、簡潔な記述ながら論点が網羅されており、刑法各論に関しては予備校本や百選にあたらずとも本書だけで十分に事足りるだろう。スタンダードな刑法の教科書としてお馴染の本書だが、判例・通説と異なる見解を採っている箇所もかなり多い。特徴的なのをいくつか挙げると、
1.「そもそも保護すべき法益の侵害が発生しているのか?」という観点から、不法原因給付と詐欺、恐喝による権利行使、利用期限を過ぎた使用貸借物の貸主による取り戻し等についていずれも犯罪の成立を否定。ここらへんは「ああ、結果無価値だなあ」と思わせるが、保護すべき法益が存在しない場合はそもそも行為の違法性を検討する余地が無いのであるから、行為無価値(二元論)の立場からでも問題なく受け入れられると思う。
2.期待可能性の欠如という観点から、犯人自身が他人を教唆して行わせた犯人蔵匿・証拠隠滅や偽証についていずれも犯罪の成立を否定。恐喝によって財物を交付した場合に贈賄罪の成立を否定するのも同趣旨によるものであろう。国家が求める理想的な人間像ではなく、生身の人間の弱さを認める視点に立つものといえる。
…等などである。いずれも説得力ある理由付けがなされており、十分納得できるものになっている。判例や学説の中には、処罰を優先するあまりかなり不自然な理屈をつけているものがまま見受けられるが、本書ではその問題点を指摘し、見事に論破しており大変痛快である。例えば、「万引き目的でスーパーに入店したらそれだけで住居侵入罪」「泥棒に盗まれた自分の物を数日...
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